主な診断方法・治療法・手術件数

主な診断方法

画像診断

CTスキャン・MRI・PET/CT

治療前に正確な進行期、病状を把握するために、CTスキャン、MRI、必要に応じてPET/CTを行います。CTスキャンは主にがんの周囲臓器への広がりや、他の臓器(リンパ節、肝臓、肺など)への転移の有無を調べる方法で、初回治療終了後の再発の診断や抗がん剤の治療効果判定でも有効です。MRIは、骨盤内臓器、特に子宮頸がん、子宮体がんに関してCTスキャンよりも正確な情報が得られます。CTスキャンをしても転移が疑われる部位の診断が確定できない場合や、初回治療終了後に腫瘍マーカーが上昇しているが、病巣が発見できない場合などには、PET-CTが有用な検査となります。

経腟超音波検査

超音波検査は外側から超音波を当てて体の内部を画像化する画像検査の一つですが、子宮頸がん、子宮体がんや骨盤内の小さな腫瘍に対しては腟からプローブ(端子)を入れて行う「経腟超音波検査」が非常に有効です。内診と同時に行うことができます。

コルポスコープ

子宮頸がん検診などで行われる子宮腟部や頸部(子宮の入り口)の細胞の検査で異常を認めた人に対して、初期の子宮頸がんや前がん状態(異型上皮)を確実に診断するために行われる検査です。子宮腟部をコルポスコープという専用の拡大鏡で観察し、病変がある部分をピンポイントで見つけて 組織の一部を採取(生検)し、病理検査(顕微鏡検査)で診断を確定します。

主な治療法

当科では前述したように日本婦人科腫瘍学会や米国のNCCNから提示された治療ガイドラインに沿った標準治療を基本的な治療方針とします。以下に当院で特徴的な治療方針に関して説明いたします。

子宮頚がん

CIN3(子宮頸部上皮内病変3)

標準的治療では子宮頸部円錐切除術(子宮の入り口の病変部を切除し、子宮は温存できる。)または単純子宮全摘術を行います。しかし、円錐切除術で治療を行い子宮を温存しても子宮の入り口が短くなることにより不妊症や流早産の可能性が若干上昇すると報告されているため、今後お子様を希望される方には、他院(東京か浜松)での光線力学療法も選択肢にあげています。

CIN3(子宮頸部上皮内病変3)

これらの患者さんでは放射線治療または化学放射線治療(放射線治療と抗がん剤治療の併用)と、手術療法(広汎子宮全摘術)を主体にした治療で同等の治癒率が報告されています。このため当院では婦人科医師だけで治療方針を決めるのではなく、放射線治療科医師が放射線治療に関して、婦人科医師が手術に関して、それぞれの治療の特徴や副作用・合併症に関して説明を行い、両者の違いを十分ご理解いただいた上で患者さんに治療方針を選んでいただきます。当院ではこれまで約3割の方が放射線治療を、約7割の方が手術療法を選択され、治療成績は同等でした。

子宮体(内膜)がん

リンパ節郭清(リンパ節の摘出)の範囲

子宮体がんでは子宮と両側付属器(卵巣・卵管)の摘出に加えてリンパ節郭清を行うことが標準治療とされています。しかし、どのような病状の方にリンパ節郭清が必要か、あるいはどのような範囲までの郭清が必要かは十分にわかっておりません。そこで、当科では摘出した子宮の迅速病理診断(手術中に行う顕微鏡検査)を行い、がんの組織型(タイプ)やがんの筋層浸潤(子宮筋層へのがんの進展)の程度を手術中に確認して、病状に応じたリンパ節郭清術の範囲を決定しています。これにより手術前の診断だけでリンパ節郭清の範囲を決定するより、リンパ節郭清を省略できる、または必要な場合には徹底したリンパ節郭清を行うことが可能となっています。

腹腔鏡下手術
近年当科では、子宮と両側付属器に加えて骨盤内までのリンパ節郭清術が想定される患者さんには、積極的に腹腔鏡下手術を行っています。腹腔鏡下手術では腹部に小さな穴を3-4カ所開けるだけで手術を行えますので、通常の開腹手術と比較すると身体への負担、術後の回復や痛み、入院期間などで大きな利点があります。また、2019年4月からはロボット支援下手術も導入し、積極的に行っています。腹腔鏡下、ロボット支援下手術共に健康保険の適応もあります。

 ロボット支援下手術は開腹手術、腹腔鏡手術の短所を克服し、双方の長所を取りいれた手術が可能となります。すなわち、腹腔鏡手術の長所である、拡大視効果による微小構造の把握、同一術野のモニターを見ることによる医療者間の手術イメージの共有を可能にしつつ、同手術の短所、つまり開腹手術の長所でもある、3Dモニターにより3次元での空間把握が可能となり、鉗子の可動性による術野展開、手術手技の自由度の増加と相まって、よりストレスの少ない手術が可能となり、コンピューター制御により手のふるえもおさえることが可能となり、より円滑に手術をすすめることができます。米国では既に婦人科悪性腫瘍手術に対して多くのロボット支援下手術が行われており、本邦でも多くの施設で導入がすすみつつあるところです。

 手術を支援するロボットの開発も本邦および諸外国で進んでおり、今後はAI技術なども導入され、ロボット支援下手術はより正確で安全な手術手技を提供する手段として発展を遂げていくと考えられます。

一方、腹腔鏡下手術を行い、傍大動脈リンパ節郭清術が必要であると手術中に判断された場合には2020年3月までは腹腔鏡下での保険適応がないため、当院ではこれまで開腹下で行ってきました。開腹術で行うには胸骨下縁から臍の横を通り、下腹部から恥骨上まで至る非常に大きく皮膚を切開する必要があります(図1)。一方、腹腔鏡下手術では、臍や下腹部に 5mm から 1cm 程度、計5-6個の小さな傷で開腹手術と同等の手技を行うことが可能です(図2)。個々の傷が非常に小さいため、開腹術と比較すると術後の痛みが少なく、早期の術後回復、社会復帰が望めます。海外、国内の文献では術後癒着や術後の腸閉塞(イレウス)が開腹術に比べて少ないとも報告されています。当院では2018年8月から厚生労働省の先進医療指定を受けて腹腔鏡下傍大動脈リンパ節郭清術を先進医療として実施してきましたが、2020年4月からは一部の対象(ステージがIA期であって類内膜がんグレード3若しくは特殊型)に対して健康保険の適応となりました。手術時間は開腹手術では約6-7時間、腹腔鏡下手術では約7-8時間です。詳細は担当医から説明を受けて下さい。
 
 
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                                                図1                   図2
 

卵巣がん

卵巣がんの標準治療について

卵巣がんは、早期に発見されにくい疾患の一つですが、適切な治療を行うことで多くの方が治療効果を実感できる疾患と言えます。ここでは、当院で行っている卵巣がんの標準的な治療法についてご説明します。

1. 手術療法

卵巣がんの治療において、最も重要な治療の一つが手術です。手術では、がん組織をできる限り取り除くことが目標です。多くの場合、卵巣だけでなく、子宮やリンパ節、その他の周囲の組織も取り除くことが推奨されることがあります。この手術を根治的手術と呼び、特に進行した卵巣がんの場合、腫瘍減量術(がん組織を最大限に縮小する手術)を行い、残存腫瘍が最小限になるように努めます。

2. 化学療法

手術と並行して行われることが多いのが化学療法(抗がん剤治療)です。卵巣がんの多くは、手術後に残存する可能性がある微小ながん細胞に対して化学療法を行い、再発リスクを低減します。一般的には、プラチナ製剤とタキサン系薬剤の併用が標準的な治療法です。

また、化学療法は手術前に行うこともあり、これを術前補助化学療法と呼びます。術前補助化学療法により、腫瘍を縮小させてから手術を行うことで、安定した全身状態で手術に臨むことができ、また手術の効果を高めることも期待できます。

3. 分子標的薬・免疫療法

近年、卵巣がん治療には分子標的薬といった新しい治療法も導入されています。分子標的薬はがん細胞の特定の分子を標的にして攻撃する薬剤で、近年多くのがん種でその有用性が報告されております。卵巣がん患者さんの場合、再発リスクが高い患者さんや、BRCAという遺伝子に変異を持つ患者さんに対して有効な場合があります。

リンパ浮腫の予防

婦人科がんの手術では骨盤内のリンパ節郭清術が行われることが多くありますが、合併症として足のリンパ浮腫(むくみ)が起こることがあります。当院ではリハビリテーション科と協力して、その予防、治療を積極的に行っています。リンパ節郭清術が予定されている患者さんは、手術前からリハビリテーション科を受診してリンパマッサージを覚えていただいて、リンパ浮腫の予防に努めています。また、リンパ浮腫が発生した場合にもリハビリテーション科を受診していただき適切な治療や指導を受けることができます。

つらい症状の緩和

がんの治療と並行して大切なのが、緩和治療(がんによるつらい症状をやわらげる治療)や支持療法(治療の副作用をやわらげる治療)です。当科では、治療の時期にかかわらず、つらい症状がある時点で、痛み、吐き気などがんによるつらい症状や治療に伴う副作用に積極的に対応しています。症状をやわらげることが難しい場合には、緩和治療科の医師に相談して、より症状がやわらぐように対応いたします。
 また、つらい症状は体の症状に限りません。気持ちのつらさ、ご家族のつらさ、治療を受けるうえでお困りなことについて、精神腫瘍科、臨床心理士(カウンセラー)、患者家族支援看護師、在宅看護支援看護師、医療ソーシャルワーカーなどの専門職員が支援させていただきます。

婦人科がんと遺伝性腫瘍

がんは、たばこや飲酒、肥満などの生活習慣だけでなく、遺伝や加齢も影響して発生することが知られています。がん患者さんのうち、約5~10%は、生まれつきの遺伝子の変化が原因でがんが発生していると言われており、このような腫瘍を「遺伝性腫瘍」と呼びます。遺伝性腫瘍の特徴としては、若い年齢でがんを発症したり、同じ臓器や他の臓器に何度もがんができたり、家族内で同じ種類のがんが多く見られたりすることが挙げられます。
婦人科が関係する遺伝性腫瘍として「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」や「リンチ症候群」が代表的なものとしてあげられます。遺伝性乳がん・卵巣がん症候群では乳がん、卵巣がん、膵臓がんなどが発生しやすく、リンチ症候群では大腸がんや子宮体がん、泌尿器系のがんが家系内で多く発生することが特徴です。
日本では、2020年度から遺伝性乳がん・卵巣がん症候群に対する遺伝子検査(BRCA1/2遺伝学的検査)が保険適用となりました。乳がんや卵巣がんを発症した方が、これらの遺伝子の変化を生まれつき持っている場合、がんを予防するための乳房や卵管・卵巣の切除手術(リスク低減手術といいます)も保険で受けることができるようになっています。ただし、遺伝子検査やリスク低減手術を受けるかどうかは、それぞれのメリットとデメリットをしっかり理解してから判断することが大切です。
当院のがん遺伝外来では、遺伝性腫瘍についての不安や心配について、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラー®と相談することができます(遺伝カウンセリング)。詳しくは担当の医師にご相談ください。

手術件数 2023年1月~12月

手術名 件数
円錐切除術 49
子宮頸がん手術 32
 単純子宮全摘術 3
 準広汎子宮全摘術 3
 広汎子宮全摘術 19
 腹腔鏡手術 7
子宮体がん手術 155
 後腹膜リンパ節郭清術 57
 腹腔鏡手術 10
 ロボット支援下手術 71
卵巣がん手術 88
 後腹膜リンパ節郭清術 17
 他科との合同手術 16
その他の悪性腫瘍手術 59
その他(子宮内膜掻爬など) 31
総手術件数 414

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